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FLAC 44.1 kHz, 16 bit
+ MP3 (320 kbps)

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Orchestra Tokyo
Yoshihide Miyanoya, Conductor

Total Time : [00:26:20]
Copyright : Yoshihide Miyanoya

Franz Joseph Haydn
Symphony No.44 in E Minor, Hob.I:44 -"Mourning"

1. Allegro con brio
2. Menuetto (Allegretto) - Canone in Diapason
3. Adagio
4. Finale (Presto)

Time : [00:26:20]

2012-12-14
Tokyo College of Music
Tokyo, Japan

■情熱溢れたハイドン39歳の時の曲に取り組む!

このレコーディングは、オーケストラ・トウキョウとの初めての取り組みで非常に印象深いものです。オーケストラ・トウキョウのメンバーはとても若いメンバーが中心の団体で、とても真摯に音楽に取り組み、細かい指揮者の意図を再現しようと全力でまっすぐに向かってきてくれる心地よさをもった素晴らしい団体です。今後も録音を通じて、オーケストラの発展を感じて頂ければ幸いです。

さて、ハイドン 交響曲第44番ホ短調Hob.I-44"悲しみ"ですが、決して誰もが知っている有名な曲というわけではありませんが、実はレコーディング1曲目にふさわしい大変な名曲なのです。音楽の性格を決める重要な要素の一つに「調性」があります。まず、明るい響きがする「長調」と、悲しい響きの「短調」があります。長調、短調、それぞれ12ずつ、全部で24の調性があり、作曲家は自分の書く曲の性格によって調性を選択して作曲しています。ハイドンやモーツァルトが活躍した古典派前期は、貴族の依頼で書かれた華やかな音楽が多く、「長調」で書かれた交響曲がほとんどです。モーツァルトは41曲の交響曲のうちの2曲のみが短調、ハイドンは生涯に100曲以上の交響曲を書いていますが、短調はわずかに11曲しかありません。

その短調のなかでもこの曲の「ホ短調」という調は、ハイドンの交響曲のなかでただ1曲だけで、のちのモーツァルトもベートーヴェンも交響曲ではとりあげていません。ヴァイオリンにとって弾きやすい調性であるにもかかわらずとりあげられないのは、この「ホ短調」が古典派の音楽にはそぐわないと感じられるほど、特別な寂寥感や悲しみの性格をもった調性であるからだと私は思っています。(ロマン派ではホ短調は一転大人気で、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲や、ブラームスの4番、チャイコフスキーの5番、ドヴォルザークの新世界、モルダウなどホ短調ならではの、哀愁たっぷりの珠玉の名曲が次々と登場します)今回のレコーディングでは、この「ホ短調」がもつ寂しげな悲壮感を細部まで表現しつつ、かつこの曲が持つスピード感を失わないように努めました。ハイドンは、他の作曲家がもっていない独特のセンス、ユーモアがあります。突然音楽が止まってみたり、突然大きくなってみたり、突然止まったり予想を裏切る転調をしてみたり、常に聞く人の心をどう動かすかに腐心した作曲家であったと思っています。そういった彼独特のメリハリをスピード感の中で楽しんでいただければ幸いです。

最後に、この曲には「白眉」といえる美しい楽章があります。それはこの曲の第3楽章で、ハイドンはこの音楽を自分の葬儀に演奏してほしいと述べていたと言われています。実際1809年のハイドン追悼の記念行事にてこの楽章が演奏されたそうです。ホ短調の淋しい音楽の中、暗闇に差した一筋の光のように、突如弱音器を付けた弦楽器で演奏されるホ長調の第3楽章。慈愛に満ちた美しさはとても言葉では表現できません。今回の録音で最も大切にした部分です。ハイドンの情熱溢れる39歳の頃の作品です。お楽しみください。

文:宮野谷 義傑(指揮者)